2012年3月の地裁判決を受けて
2010年12月31日に165名(パイロット81名・客室乗務員84名)が整理解雇され、パイロット76名、客室乗務員72名の原告が闘ってきた2つの裁判で、3月29日、30日にそれぞれ判決が出されました。判決は原告の主張を全部切り捨て、被告の会社主張を全面採用するという不当極まりない判決でした。
原告団は判決後直ちに控訴する方針を決定し、142名(パイロット71名、客室乗務員71名)が4月11日に控訴しました。
判決の特徴は
1.労働裁判でありながら労働者(被解雇者)の痛みに全く思いを馳せていない
整理解雇4要件の法理には、個々の要件を満たしているかどうかの吟味以前に、そもそも「雇用を守る」ための法理であるという点に本質があります。誰も人間の尊厳や労働者の生活権を奪うことはできません。判決は、企業が商取引等で損失を出すことと労働者が生活の糧を失うこととを同列に論じています。白石判決は「生活費がかさむとも一概に言えないし、これを認めるに足りる証拠がない」とまで言い放っています。両判決には、首を斬られた労働者の経済的、精神的な苦しみに対する人間らしい思いが全くありません。
2.2つの判決は骨格が全く同じ
判決では整理解雇4要件を適用すると言いながら、実際には「経営破綻し、更生中の会社」という一般受けするイメージを強調し、原告の提出した証拠や事実を全て否定するなど、4要件を有名無実化させる意図が明瞭に出ています。まさに整理解雇4要件を緩和し、首切り自由の社会を狙う財界に顔を向けた判決です。
また、両判決は東京地裁民事11部と36部の事前調整の疑いが感じられるもので、憲法76条が定める「裁判官の独立」に反するとさえ思われる判決となっています。
3.稲盛会長の重要証言を無視、或いは矮小化している
裁判では、利益計画上も(2010年度の営業利益は目標の641億円に対し1884億円。人件費は206億円も多く削減)、人員計画上も(1500人の削減目標に対して解雇予告時1696人削減)、解雇の必要がなかったことが明らかにされました。
当時の最高経営責任者であり解雇事件のキーパーソンである稲盛会長は、「会社の収益状況から言えば、誰が考えても雇用を続けることは不可能ではなかった」と証言しました。ところが乗員裁判の渡辺裁判長はこの稲盛証言を黙殺し、判決で一言も触れていません。客室裁判の白石裁判長は「主観的心情の吐露に過ぎない」と助け舟まで出す有り様です。心情の吐露とは信念の表明です。被告を勝たせるために、法廷で宣誓して述べた真実の「証言」をも捻じ曲げる2つの判決は、司法に対する国民の信頼を大きく損ねるものです。
4.病気欠勤や年齢による解雇が安全を脅かしている事実を、主観だけで全面否定
病気欠勤を解雇の理由にしたことで「体調が悪くても、素直に申告して仕事を休むことを躊躇する」という組合の指摘に対しては、会社側も団交で同じ認識を示していました。にもかかわらず、渡辺裁判長は「にわかに想定し難い」、白石裁判長は「単なる憶測にすぎない」などとして、安全への影響が甚大であるという原告主張や、国際的なパイロット団体(IFALPA)の危惧を裁判官の主観だけで全面否定しています。
また、知識や経験と年齢には相関関係がない、ライセンスさえあれば経験は関係ない、などという乱暴な判断をしています。医師免許さえ持っていれば1年目の医者にでも安心して難病手術を任せられるのか、裁判官は1年目でもすぐに裁判長が務まるのか、と問いたいものです。
5.解雇は組合つぶし狙いの不当労働行為であることを、「恣意性はない」と一蹴
被解雇者には労働組合の委員長、産別団体の議長などの三役や、その経験者が大勢います。彼らは安全問題や労働条件の改善、憲法9条を守る闘いなど、航空の労働組合の先頭に立って闘ってきました。事故の歴史を知り、安全のために物を言う人たちの首を切ったのです。組合役員の解雇はILO条約違反です。
今回の解雇は、経営破綻を機に「沈まぬ太陽」で有名になった異常な差別と組合敵視の腐敗した労務政策を復活させようとするものです。そのために整理解雇4要件を踏みにじり、組合役員を排除しようとする経営の強い意図がありました。ところが判決では、対象者の選定に恣意性はない、とこれを一蹴しました。
6.判決は、原告が主張した「破綻の原因」に全く触れていない
そもそもJALの経営破綻の原因の一端は、航空行政と放漫経営にあります。
・歪んだ航空行政(対米約束の公共投資基本計画)による空港の乱造と、その財源としての高い着陸料や航空機燃油税
(2008年度の公租公課は1700億円)、政治の圧力による不採算路線の運航
・米国との貿易不均衡是正のため、ジャンボ機を113機も導入(1機200億円)
・本業以外のホテル・リゾート開発事業の失敗(1300億円の損失)
・ドル先物予約(2200億円の損失)や燃油ヘッジの失敗(1900億円の損失)
社員には経営破綻の責任がないことは、2009年11月19日の団交で当時の安中常務が「社員に経営危機の責任はない。経営に責任がある」と認めています。ところが判決では、原告が主張した「破綻の原因」には全く触れていません。
7.東京地裁擁護の判決であり、破綻原因と再建に責任のある政府を免罪する判決
東京地裁が管財人として片山英二氏と企業再生支援機構を選任しました。管財人が「更生計画」を提出し、東京地裁の民亊8部がこれを認可しました。そのため「更生計画」を絶対視し、計画に書かれていないことまで含め、更生計画を口実にして原告主張を切り捨てるという「東京地裁擁護」の判決となっています。まるで地裁ぐるみの判決であると同時に、JAL経営破綻の原因とJAL再建の両方に責任のある政府を免罪する判決であると言えます。
いま日本航空の現場では・・・
現場労働者が将来展望を無くし、モチベーションが低下し、不安全事例が続出。
2010年1月の経営破綻後の1年間で、ベテランパイロットなど670名、整備士1470名、客室乗務員1930名、地上職員1180名(計5250名:被解雇者165名を含まず)が早期退職、希望退職でJALを去りました。そして、整理解雇後の1年間で、パイ
いまJALの現場には、整理解雇の強行と今回の不当判決により暗く重い雰囲気が広がっています。会社に残っても将来展望がなく、モチベーションを保つのが困難となり、物が言えない職場になってきています。最近の安全トラブルの多発(骨折して乗務、尻もち事故、カートの飛び出し、頭の怪我、指の切断等)は、ベテランの排除や人手不足でJALの安全が後退している証です。安全統括管理者の大西会長は、各部門長から文書を発信せよ、と檄を飛ばす安全キャンペーンを行っていますが、具体策は何も示していません。
一方で、客室部門では人手不足のため2012年度内に日本人既卒250名、外国人260名を採用し、2013年度の新卒者200名の採用募集も発表しています。JAL経営は直ちに自主的な判断で解決を図り、訓練が短期間で済む解雇者を職場に戻し、必死で安全を守っている職場の活力を復活させるべきです。