安全(このままでいいのか日本航空) 安全(航空業界に潜む安全問題) 本文へスキップ

JAL不当解雇撤回争議団

空の安全を守れ
~JAL不当解雇事件が“空の安全”にもたらすもの~

パイロット不足の陰に
 新聞紙上でLCC(格安航空会社)関係の“パイロット不足で大量の欠航便”が報道されました。ピーチ・アビエーションでは2014年5月~10月に最大2128便の欠航、バニラ・エアは6月だけで154便の欠航、ジェットスター・ジャパンも6月から予定していた増便計画を延期すると発表しています。LCCは、日本では2012年に入って誕生し、機材や人員、機内食や旅客サービスを最小限に抑え「徹底的な低コスト体制」を運営の基本としています。日本のLCCの拡大は目を見張るものであり、2012年に国内線全体の0.9%だったシェアーは2014年3月には7.5%にまで急成長しています。
 しかし、「規制緩和の象徴」とも言えるLCCの短期間での路線や便数の急速な拡大は、航空界全体に様々な歪を生み、パイロット不足という事態にも拍車をかけています。航空会社にとって路線の拡張には、それに伴う安全運航体制の社内体制の確保、社内での安全意識の徹底等々が伴わなければなりません。航空会社全体の無理なくバランスの取れた発展こそが安全運航の基本であるとして、過去、日本航空では“伸びすぎた翼”は営利最優先に走る航空経営の抱える不安全要素として問題となって来ました。
 今回のパイロット不足の問題についても、単に運航便を確保できるのかどうかという問題だけではなく、例えば充分な訓練体制が取られているのか、飛んでいるパイロットの勤務状況が厳しくなり過ぎてはいないか、社内の安全教育が徹底されているのか、整備・運航管理者等の地上支援体制は追いついているのか等々、将来に渡って安全運航に直結する問題として見ていく必要があります。

JAL不当解雇撤回裁判の高裁判決を通して“空の安全”を考える
 JAL不当解雇撤回裁判の控訴審で、客室乗務員とパイロット原告団に対して、2014年6月3日、5日、共に“控訴を棄却する”という原告敗訴の不当判決が出されました。判決内容は、私達の主張に全く目を向けることなく全ての点で会社主張を容認、もしくは盲目的に追従する内容となっています。
ここでは、“空の安全を守れ”という点について判決を通して考えて行きたいと思います。

裁判所が示した“安全”とは
 経営陣が解雇対象者の人選基準とした「ベテラン・パイロットの解雇」、「病気欠勤・休職の履歴を理由にした解雇」は、その基準が提示された当初から、国の内外から非難を浴びて来ました。しかし、東京高裁の判決では「解雇基準自体の問題」についての判断を避け、航空会社の安全レベルについては以下のような判断を下しています。「・・運航の安全に及ぼすような経験不足の問題が生じているとは認められない(本件において具体的に見た時、本解雇によって被控訴人の航空機運航の安全確保に必要な知識や経験が許容できない程度にて低下すると認められるだけの根拠があるとはいえない)・・・・」(主旨)とし、ベテラン乗員の果たす重要な役割を一刀両断に切り捨てています。

体制のあるべき姿を否定した判決
 パイロット業務は、飛行訓練を経て行われる技能審査に合格しライセンスを取得することから始まります。パイロット・ライセンスを取得すること自体、大変に厳しい難関を乗り越えることになりますが、注意すべき点は、ライセンスは単に運航に従事する為の基準を充足したに過ぎないということです。パイロットはライセンスを受けた以降も、多くの運航経験を積み重ねることにより、「より安全な運航を続け、向上させてゆくこと」が期待され、それが航空会社の安全の質の向上に直接的に繋がっています。
 高裁判決で看過できない点は、経験が薄い乗員の運航と経験深い乗員を同一視し、“ベテラン乗員を先頭にして、様々な経験を有するパイロット全体で重層的に安全運航の質的向上をめざす”という安全運航体制のあるべき姿を否定している点です。航空会社にとってのベテラン乗員は航空会社の運航に当たって重要な位置を占めています。その果たしている役割は、単に“事故などの最悪の事態が起こっていないのであるから安全性に問題ない”と言わんばかりの表層的な論議ではなく、実際の運航の現場でのベテランの果たしている役割を正確に見てゆくことが必要です。

百戦錬磨のつわもの
 長年勤めてきた職業人には、積み上げられて来た「経験」と鍛え上げられた「技術」が蓄積されています。パイロットの職務は、広い視野を携えた的確な「判断力・決断力」と、職人的な「技」が問われる職業です。そして、その「経験」と「技術」は定年で飛行機を降りるその日まで成熟し続け、自らのフライトの安全運航に生かされると同時に、後輩のパイロットに伝承されて行きます。ベテランとは、数多くの失敗を経験し、多くの困難を乗り越え、そして多くの運航を成し遂げてきた自信を備え、それらを教訓として次の運航に生かしてゆく達人ということができます。更には、教育・訓練の場における多くの経験を踏まえたベテラン教官のアドバイスは、訓練の質と効率を高めると同時に、航空会社の質の向上に大きく貢献しています。

操縦室のコミュニケーション
 操縦室でのパイロット間の良好なコミュニケーションは安全運航に直結しています。JALの連続事故の歴史には、閉鎖的な物言えぬ雰囲気が背景にありました。老練な機長は、コックピットでの相互の信頼関係が重要であること、そして、必要とされる自由闊達な雰囲気がガラス細工の様に繊細で壊れ易いものであることを、経験から熟知しています。そして、ベテラン乗員は、運航現場の良好な雰囲気を守るためには、社内における労使の信頼関係、乗員同士の信頼関係が良好であることの大切さも承知し、常に健全な関係を築くための努力を続けています。パイロットの職務は“飛ぶ”という仕事だけではありません。運航体制維持のための地上業務も行います。それはマニュアル作成、教育・訓練教官業務、訓練シラバスの構築、運航に関する社内規定の作成等、数多くの業務です。老練なパイロットの経験に裏付けられた発言には重みと説得力があり、時には“言いづらいことも率直に指摘する”存在です。煙たがられることもありますが、長い目で見ると航空会社の健全な体質や、求められる安全運航のレベルを保ち、向上させることに貢献しています。

行き過ぎた営利優先を諌める
 他社との競争にさらされている航空経営は、どうしても営利を優先しようとする宿命を持っています。そして、行き過ぎた営利優先の会社方針の影響が最も顕著に現れるのが運航の現場です。その現場からの“リアルな声”を押さえようとする力が会社組織から働くことを、私たちは長い歴史の中から学んでいます。実情を指摘しづらいような雰囲気の中で、若いパイロットが発言を躊躇する状況下でも、老齢な乗員から、行き過ぎた安全軽視に対して的確な意見が出されることは、安全運航を堅持する上においては、貴重な存在となっています。老練なパイロットは、長年の経験から運航乗務員の寄って立つ職務のあるべき姿、更には、航空運送事業の本質を見抜いています。その深いプロ意識は無言のうちに様々な判断と行動の中で発揮され、航空会社の安全運航に貢献するに留まらず、航空界全体の健全な発展に寄与する存在です。知識不足は学習すればよい、技術不足はシミュレーター(模擬飛行装置)で練習すればよい、しかし、高い見識と貴重な経験を充足できるのはまさに経験だけなのです。パイロットの世界では、ベテランの解雇基準の危険性は発表直後から問題となり、国際会議の場で「エアラインに取ってベテラン乗員の解雇は自殺行為だ」という発言が出されています。

“病歴を基準”とした、本質的な問題点
 解雇対象者の人選基準に病歴を用いたことも重大な問題があります。パイロットの業務は、厳しい環境を乗り越えて行われています。時差や徹夜を伴う不規則な勤務、連続9時間を超える休憩の無い長時間勤務、騒音や強い紫外線、宇宙放射線、気圧の変化、低酸素状態等々極めて特殊なものです。航空機は一旦離陸すると、どんな事態が起ころうとも、安全に着陸しなければなりません。悪天候あり、機材故障あり、乗客の急病あり、空港施設の故障あり、数多くのストレス要因を抱えて乗客の生命と財産を守らなければならないという、運航乗務員の勤務は、極めて過酷な状況下に置かれています。この様な環境下で乗務を続けている乗員に対して航空法は、定期的な身体検査を義務づけ、同時に“安全運航を守る”という観点からパイロットに体調管理の責任を課し、日々の乗務に向かっては体調の自己申告を基本に、正常な身体状態での乗務を義務付けています。体調が悪い時には、躊躇なく自己申告することにより、航空会社は交代要員を起用し安全を担保することが航空法の定めです。
2010年9月に日本航空の経営から出された「病歴での解雇基準」は、パイロットに対して“体調が悪くても、申告をすると、将来解雇につながるのではないかという疑心暗鬼”を生み、“体調が悪くても言い出せない”という極めて不健全な職場状況を作りました。これは航空法に定められた安全対策としての航空身体検査制度の寄って立つ基盤を崩し、身体検査に寄せる乗員の信頼を大きく傷つけました。

世界的に見ても異常な解雇の基準
 この「年齢と病歴による解雇基準」に対して、世界100カ国、10万人を超えるエアライン・パイロットを組織するIFALPA(国際定期航空操縦士協会)は解雇基準が出された直後から、解雇された日本航空の乗員の支援を表明し、即座に支援声明を発表しました。そこには「日本航空の人選基準は国際標準からかけ離れており、航空安全と密接なかかわりを持っている」と述べ、日本航空のパイロットに対しては、必要なあらゆる援助を行う事を表明し、現在も力強い支援が続けられています。

経営破綻以降、経営の安全意識が大きく後退
 安全な運航とは、航空経営者の安全運航に対する確固たる姿勢が示され、その姿勢を貫く為の健全な社内体制の確立、明るく闊達な運航環境の保持が不可欠です。それは、社内の各部門がそれぞれ丹念に不安全要素を抽出し、一つ一つ取り除くという地道な努力が継続的に行われることによって始めて達成されるものです。
 経営破綻以降、日本航空の経営の“安全”に対する姿勢は大きく後退しました。数多く発生したインシデント(事故に至る前の不具合)に対し、抜本的な安全対策を示す事なく、“安全運航は当然だ、経営の基盤である”とただ繰り返し、現場に責任を押し付けるだけの経営姿勢は営利最優先で突き進む経営者の姿そのものであり、安全の基盤を大きく後退させました。それは、経営の最高責任者であった稲盛会長(当時)の「日本航空の社員は御巣鷹山(事故)がトラウマになっている」「利益なくして安全なし」、加藤管財人代理の「京セラのように1兆円の内部留保ができてから安全を語れ」などの発言に端的に現れています。これらは、経営の重大な安全軽視の姿勢を示したものとして大きな問題となっています。
 最近のニュースでは、「異例の頻度で整備ミス」として、安全に関する問題が表面化しました。これは整備ミスが13年10月から14年5月にかけて計16件発生。運航に直接支障は出ませんでしたが、最悪の場合、エンジンの一部が損壊する恐れがありました。
これら一連の整備ミスについて、マスコミによる発覚直前まで、社内で全く周知されていませんでした。これは「情報の迅速かつ的確な共有の不足」とも言えるのではないでしょうか。運航に影響がないから問題はないと会社が認識しているのであれば、重大な危機意識の欠如ともうかがえます。
 この整備ミスの連続について、国土交通省は日本航空に対し、異例の頻度でミスが起きているとして、原因究明と再発防止を求めました。

 安全運行を行う上で、重要な要素は多々ありますが、その中の

 ・年齢層の厚みからくる、高度な技術・物事の考え方の伝達
 ・風通しの良い、信頼関係に基づいた良好なコミュニケーション
 ・問題点は率直に指摘(健康に至っては、自分から言い出せる)できる環
  境は、欠けてはならないものです。



【日本航空 稲盛和夫 取締役名誉会長は】
 利益を出して
 余裕がなければ
 安全を担保できるわけがない。


 運輸事業者にとって至上命令であるはずの乗客の安全確保よりも、企業の利益が優先されると発言。航空法第103条には、「航空運送事業者は輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない」とあるほか、2009年12月にはJALの安全アドバイザリーグループが「財務状況が悪化したときこそ、安全の層を厚くすることに精力を注がなければならない」とも提言しています。だが、稲盛会長はこれらの提言に対し、「知りません」「よくわかりません」と回答しました。また、地裁においては「私は航空の素人です。」とまで、言い切っています。

【JAL再建における社員教育では】
「1兆円もうけてから安全を語れ」と社内で教育し、安全を軽視
 JAL再建にあたる加藤愼管財人代理が社員に対する教育で、「1兆円の内部留保を築いてから安全について語ってほしい」と発言。
  この日航社内教育での異常について、国会答弁の場で議員が現場では、「台風を避けると燃料代20万円が余計にかかる。揺れるけれども台風を突っ切って行き ます」と言って運航する驚くような事態など、「『利益なくして安全なし』とする稲盛和夫会長の経営哲学の弊害が表れている。絶対安全を指導するべきだ」と 求めました。
 これに対し、前田武志国交相(当時)は、「指摘のようなことが続くような体質が経営の中にあれば放置するわけにはいかない。適切に監督したい」と述べています。
※加藤愼管財人代理の社内教育での発言(抜粋)
「まずは京セラの内部留保(1兆円)を超えることを目標としてほしい。
 きちんと内部留保して、揺るがないような財務基盤を築いてから安全について語ってほしい。何かというと「安全のために」とか、「社会的使命が」と か言いますけど、これだけ何千億円も人の財産を踏み倒して、
そんな会社が安全について語っても残念ながら社会からは受け入れられない。」

2010年12月31日 
整理解雇以降なにが起こっているのか・・


◆2011年2月18日
【立て続けのイレギュラー事象にJAL運航乗員部長通達「イレギュラーの連鎖を断ち切ろう!」】
 ホノルル空港への降下中に起きた揺れによる乗客・客室乗務員の負傷事故など、このところ立て続けに起きた十件ものイレギュラー事象を列挙し、「安全運航を支える私たちは、外部から会社の安全運航体制に疑問を抱かれても仕方のない事例が続いている現状を十分に認識し、再発防止に向けて懸命に努力して、ここでイレギュラーの連鎖を何としてでも断ち切りましょう」との通達を出しました。
 事態を重く見た国土交通省は2月21日から3月31日まで、JALと関連会社への立ち入り検査を実施し、「さらに積極的な安全施策を講ずる必要がある」との指導をしました。

◆2011年8月
燃料節約のため、台風に突っ込むブリーフィングをする機長(リンク外しました)

◆2012年1月
JAL機長血まみれ骨折でもフライトするこれだけの理由(リンク外しました)

◆2014年6月9日
【異例の頻度で整備ミス、JAL植木社長、整備ミス16件等で陳謝】

 植木社長は2014年6月9日の定例会見で、相次ぐ整備ミスや重量管理システムの不具合について「今回の件を謙虚に受け止めたい」などと陳謝しました。
整備ミスは13年10月から14年5月にかけて計16件発生。整備ミスの内容は、運航に直接支障は出なかったが、最悪の場合、エンジンの一部が損壊する恐れがありました。国土交通省は異例の頻度でミスが起きているとして、原因究明と再発防止を求めました。
赤坂整備本部長は
「ひとつひとつはヒューマンエラーで、それぞれ原因が異なる。全体に共通する背景として、整備業務が高度にシステム化されており、ひとつひとつの業務はしっかり行われている。だが、業務間をつなげていく人間相互のかかわりが薄くなってきている」
などとして整備士間のコミュニケーション不足がミスにつながったとの見方を示した。
◆ ◆ ◆
  これら一連の整備ミスについて、マスコミによる発覚直前まで、社内で全く周知されていませんでした。これは「情報の迅速かつ的確な共有の不足」とも言え るのではないでしょうか。運航に影響がないから問題はないと会社が認識しているのであれば、重大な危機意識の欠如ともうかがえます。