航空業界に潜む安全問題
ドイツ機墜落事故から考える
健康管理は国の責任で
3月にフランスの山中に、ドイツの格安航空会社(LCC)ジャーマンウイングスの旅客機が墜落する事故が起きました。この事故は、今日の航空業界に潜む数々の問題点を指摘しているように思えてなりません。
82年事故と共通
この事故は、パイロットが意図的に墜落させた可能性があるという点で、1982年2月に日本航空機が逆噴射によって墜落した羽田沖事故と共通性があります。そして、今日の航空業界が、当時から大きく変貌していることも考慮しなくてはならないでしょう。
事故を契機に、パイロットの健康管理問題がクローズアップされています。航空に限らず公共輸送機関の安全対策は、労働者個人に健康管理を任せるだけでなく、事業者や国が責任をもたなくてははなりません。
ドイツ機事故の後に、国土交通省が「日本では、精神面も含めて乗員の健康管理の対策は取られている」とコメントした報道を読みました。
確かに、羽田沖事故後の84年に、安全対策として、乗員の健康管理を事業者に任せるだけではなく、第三者機関として設立された航空医学研究センターで、日航や全日空パイロットの航空身体検査を実施するようになりました。この点は評価できるところです。しかし、経営破たん後の日航では、パイロットの航空身体検査は、別の民間の診療機関で実施しています。
国土交通省は、羽田沖事故以来、日本の航空会社で精神疾患による事故は起きていないと、日本での乗員の健康管理の充実ぶりをアピールしています。しかし、規制緩和が行われています。2012年4月1日から、機長の航空身体検査を6ヶ月ごとから1年ごとへ頻度を減らすなど、後退している面も見逃せません。
また、今回のような事故の対策として、操縦室に2名体制をとるということが検討されています。つまり、1人のパイロットが離席中に、客室乗務員を操縦室に呼んでパイロットを監視させたり、補助をさせようというのです。
操縦室の補助は
運航現場の実情を考慮していない対策です。職務上、操縦操作の知識がない客室乗務員に操縦室での補助はできません。また客室で乗客の安全を守るという客室乗務員本来の保安任務に支障がでかねません。
そもそも1980年代までは、大型旅客機は2人のパイロットと航空機関士1人の3人で運航していました。90年代に入って、技術革新を理由に規制緩和が推進され、今日ではほとんどの旅客機がパイロット2人だけでの運航となってきたことも忘れてはならなりません。
このように事故後に安全対策が議論されていますが、ドイツ機墜落事故と同様の事故を防ぐような真の安全対策になるか疑問があります。
現在の航空業界に潜む不安全要素を取り除く対策を講ずることこそ求められています。
現場の声生かす改善を
航空業界の不安全要素の一つが、パイロットの労働条件や職場環境などの問題です。
近年、さまざまな職場で、長時間労働による過労やパワハラによる自殺が起こっています。パイロットであっても他の職種から例外ではなく、労働環境や人間関係が悪ければ、心身に変調をきたす危険性があります。
乗務時間の延長
近年、航空の規制緩和策によって、パイロットの乗務制限時間が延長されています。世界的なパイロット不足からくる過重な労働によって、疲労の蓄積は無いのでしょうか。病気のときに無理して乗務をしないよう、病気欠勤しても賃金の保障はあるでしょうか。
この種の労働条件の問題は、本来、安全対策の一環として取り組むべき課題です。しかし、経営の効率化を追求したい事業者は、労働条件改善に否定的です。
行政側は「個別企業の労働条件には不介入」などの理由をつけて、企業の立場を擁護しています。現状は、企業の利益第一主義の下で、こうした視点での安全対策が見落とされています。
もうひとつ、安全を担保する上での重要な視点として、パイロットの仲間同士の交流など、職場でのパイロット相互の信頼関係の問題があります。
日航の羽田沖事故(1982年)のケースでは、産業医が当該機長の精神疾患を見逃したという問題もありました。同時に、当該機長は、機長訓練中から同僚との交流がほとんどなくなっていました。
また、当時は機長全員管理職制度の下で、機長がお互いに率直に悩みや意見を述べ合う労働組合の存在がありませんでした。御巣鷹山事故後の1986年、空の安全を守ろうと機長組合が結成され、当時の職場の雰囲気は一変しました。特筆すべきことでした。
過去の日航では、副操縦士が訓練中にパワハラを受けて悩み、帰国便のトイレの中で自壊を試みた事例や、副操縦士が精神的に追い詰められ、家族が組合に相談に来たケースなどがありました。また、操縦室で機長が副操縦士に対して暴力をふるった事件もありました。
私自身も副操縦士時代に同乗機長からパワハラを受けて、上海から成田まで乗務する間、機長といっさい目を合わせることも、言葉を交わすこともなかった経験があります。
信頼関係と組合
こうしたケースが異常運航に至らなかったのは、職場に信頼できる仲間がいたことや、パワハラをなくそうとする乗員組合の取り組みがあったからです。
私は2010年末に解雇されるまでの35年間の日航での乗務経験から、「自由にものの言える明るい職場が安全運航の基盤である」と確信を持っています。
今、後輩のパイロットから「職場が暗い」と話を聞きます。私たちが解雇されてからの4年間に150名ものパイロットが日航を自主退職して他社に流出しています。これは深刻な問題です。
日航では、労働組合を分裂させて差別する労務政策が半世紀以上も続き、安全の基盤を切り崩しています。このことを日航経営者も国も認識すべきです。
ドイツ機事故でも、ジャーマンウイングス社の労務管理や職場実態を調査することが必要でしょう。LCC(格安航空会社)は航空の規制緩和策の象徴となっていますが、LCCといえども乗客の命を預かることに変わりはありません。
また、日本の行政当局には、これまでの安全対策では想定できなかった問題が現場に潜んでいることに着目して、現場の声を反映させた安全対策を講じるよう求めたい。
以上、JAL不当解雇撤回争議団の団長が新聞社に寄稿した内容です。