裁判  JAL不当解雇撤回裁判  JALを取り巻く数々の裁判
【JALの解雇基準】
●年齢での解雇基準  

◇機長    55歳以上  

◇副操縦士  48歳以上  

◇客室乗務員 53歳以上 

●病歴での解雇基準  

一定日数以上の病欠者を対象に多くが30歳〜40歳代
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JAL不当解雇撤回争議団

JAL不当労働行為裁判(行政訴訟)裁判 JAL不当解雇撤回裁判 JALを取り巻く数々の裁判

会社は依然として救済命令不履行の法令違反

管財人が日本航空の再建途上で労働組合に行った恫喝が、都労委・東京地裁・東京高裁で不当労働行為と認定され、不当労働行為救済命令が出されています。日本航空経営陣は依然として救済命令不履行の法令違反のまま、最高裁に上告しています。

注:東京高裁判決は(要旨)「労働組合の求めに妥協を図ることなく、労働組合の運営に介入してはならない。争議権は、会社との対等性を確保するための労働組合の根幹的な権利の一つ」と指摘し、明確な法違反と日本航空経営を断罪しています。

注:救済命令が交付されれば・・・
 ・労働委員会の救済命令は、その命令書の「交付の日から効力を生ずる」(労働組合法二七条十二項)
 ・使用者は、「遅滞なくその命令を履行しなければならない」(労働委員会規則四五条一項)
 ・裁判所への「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」(行政事件訴訟法二五
  条一項)

”行政訴訟”JAL不当労働行為裁判とは

JAL不当解雇撤回裁判(原告=被解雇者、被告=日本航空)とは別に
”行政訴訟”JAL不当労働行為裁判(原告=日本航空、被告=都労委)があります。

概要
 本件は、日本航空乗員組合と日本航空キャビンクルーユニオンが整理解雇に反対する要求を掲げて、争議権確立に向けた組合員による投票を行っている最中になされた日本航空経営による介入行為として、既に2011年8月3日に東京都労働委員会が不当労働行為救済命令を交付
 日本航空はこれを不服とし、命令に従うことなく2011年9月に都労委を東京地裁に提訴。
 2014年8月、東京地裁は日本航空の主張を退け、都労委の命令通り「不当労働行為」との判決を下す。日本航空はこの判決を不服とし、東京高裁に控訴手続きをする。
 2015年6月18日、東京高裁において、(東京地裁判決に続き)2010年11月にJALが労働組合に支配介入したことを不当労働行為であると認定。「公明正大であるべき管財人による違法行為」を断罪した。
 会社はこれを不服とし、最高裁に上告。

経緯
2010年9月27日 
会社は整理解雇の人選基準発表。人選基準に該当するパイロット・客室乗務員を仕事から外し、退職強要の面談を実施。

11月初旬
両組合は、「なんとしても整理解雇は回避すべき」との強い要求から、争議権確立して会社と交渉を行うため、組合員による争議権確立のための投票を開始。

11月16日
会社はCCUと乗員組合の執行部を呼び出し、企業支援機構ディレクターと管財人代理が、整理解雇に反対する要求について争議権確立の為の投票を実施していた両組合に対し、「争議権が確立された場合、3500億円の出資はできない」と発言。管財人代理らからの発言は、“争議権を確立したらJALを破綻させる”という事を意味。当然、職場に大きな混乱をもたらし、先に投票が始まっていたCCUはかろうじて争議権を確立、しかし乗員組合は投票中止に追い込まれる。

12月8日
乗員組合・CCUが、東京都労働委員会に不当労働行為救済申し立て。

12月31日
会社が運航乗務員・客室乗務員165名の解雇強行!

2011年 8月3日 
東京都労働委員会は、「不当労働行為」と認定し、救済命令を出す

 ◆都労委の評価
 ・支援機構は、管財人(=使用者)と出資者の地位を併有するが、同一法人格の行為を区別するのは容易ではない。両氏は
  複数回にわたり行われた団交、事務折衝において労務担当として出席しているので、組合が出資者の発言と認めるのは困
  難。出資者という一面を有することの一事を持って不当労働行為の行為主体から除外することは適切でない。
 ・投票中であり、確立されるかどうか明らかでなく、純然たる組合の自主決定に委ねられるべき時期に本件発言を行う高度
  の必要性、緊急性に関する疎明が会社からなされていない。
 ・本件各発言は、争議権投票を控えた組合員に対し、投票を躊躇させるのに十分なものであり、組合の運営に影響を及ぼす
  ものであると言える。
 ・冒頭に「争議権を尊重する」と述べても支配介入を否定できない。
 ・支配介入と評される行為と結果との因果関係は必要ない。CCUが確立したからといって、支配介入の成立を否定できな
  い。

 ◆都労委の判断
   本件各発言が、本来組合が自主的に決定すべき争議権の確立を自粛するよう求める趣旨のものであること、争議権投票
  が行われている最中に更生手続きにおいて中心的な立場にあった両氏からなされたことなどを総合的に考慮すれば、両氏
  の発言は、組合員に対して威嚇的効果を与え、組合の組織運営に影響を及ぼすものであり、組合の運営に対する支配介入
  であるといわざるを得ず、労働組合法第7条3項が定める支配介入に該当する。

 ◆命令
   両組合に対して稲盛会長名での謝罪文の交付、及び新聞2項大での社内10日間の掲示。


2011年9月1日
 日本航空経営は、都労委の命令取り消しを求めて東京地裁に提訴
(原告=日本航空、被告=都労委。組合は参加人として裁判に加わっています)

2014年1月16日及び23日
 両日に東京地裁で行われたJAL不当労働行為裁判(行政訴訟)の証人尋問で、2010年9月当時「争議権を確立したら支援機構からの3,500億円の出資はしない」「銀行のリファイナンスもない」「裁判所も更生計画を認可しない」などの加藤管財人の発言は、機構の決定もなく、銀行・裁判所当事者が発言した事実もなかった事が裁判の中ではっきりしました。飯塚ディレクターや加藤管財人が如何に「意図的」・無責任(偽り・脅かし)な発言をして、職場を混乱させ・組合活動を抑圧したか、そしてその状況を使って整理解雇等を強行した事実経緯がはっきりしました。

2014年8月28日
東京地裁 完全勝利判決
・判決要旨(参加人弁護団による)
行政訴訟判決 原告団見解文

2014年9月
 JALは東京地裁の判決を不服とし、東京高裁に控訴手続きをする。

2015年6月
東京高裁 東京地裁判決を指示
都労委の救済命令取り消しを求めた日本航空の請求を棄却する判決を下しました。
判決文
判決についての声明 争議団
判決についての声明 日本航空乗員組合・日本航空キャビンクルーユニオン
判決についての弁護団声明

2016年9月
最高裁 会社の上告棄却・上告不受理の決定

最後に
この行訴裁判は、JAL不当解雇裁判とは密接不可分で一体の裁判と言ってもよいほど関わりの深い裁判で、解雇問題の解決の為にも絶対に負けられない裁判となっています。
(JAL不当解雇撤回裁判ニュースから)詳細および命令書の中身等はこちら

JAL不当労働行為裁判 労働法学者からみたこの事件

国学院大学法学部 本久洋一教授 の意見書(概要) (会社主張に対する反論として組合から提出した意見書)

◆本件事案の特徴 −これほど単純明快な支配介入は珍しい−

・争議権投票という組合の内部意思決定手続きそのものを直接的な対象としている。争議権投票は、労組法5条2項8号が「同盟罷業(ストライキ)は、組合員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと」を必要事項として定めていることから、労働権保障(憲法28条、労組法1条2項、8項)に関する重要手続きとして、その要保護性が高度にわたる。つまり本件発言は、最も介入してはならない時期にピンポイントでなされたといえる。
・発言は管財人(使用者)より「正式な見解」として労使協議の場においてなされた=労務対策の一環である。
・争議権投票の抑制を期する使用者の言論が、一般組合員を対象としてなされた場合は、投票行動に影響を与えることを主たる目的とすると解され、支配介入(不当労働行為)に当たることは当然である。
・本件発言のように、投票の開始/終了を決定する権限を有する組合役員に対してなされたことは、一般組合員への介入以上に重大かつ悪質な支配介入である。この点、先例を見ない。
・都労委命令の判断枠組みは、判例・学説における通説的見解を採用するものであり適切妥当である。
・裁判における会社主張は、従前の判例・学説に対する検討を踏まえておらず、独自の見解が唐突に展開されている。労組法7条3号の解釈論としても無理がある。
◆裁判での会社主張について −解釈論としては無理がある−
裁判での会社(原告)の主張は従前の判例・学説に対する検討を踏まえておらず、独自の見解が唐突に展開されている。解釈論としても無理がある。
【会社側学者意見書A】
アメリカ労働法を根拠に「使用者言論に報復、暴力、威嚇もしくは利益の約束」を含まなければ不当労働行為にあたらない。
労組法7条3号(不当労働行為)には、このような制限規定が存在しないことから、少数学説である。日本においては「組合の自主性を尊重すべき内部運営上の方針に具体的な働きかけを行うことは支配介入であり、とりわけ威嚇・不利益の示唆などを伴う場合は明確である」という判断枠組みが一般的である。

【会社側学者意見書B】
会社更生手続き中における管財人による支配介入について
1.対象である情報が更生会社の事業維持にとって重要性かつ合理性を認められ
2.利害関係人たる労働者、労働組合が争議権確立に関する自主的な意思形成をするための資料となり
3.情報の内容の本質部分を正確に再現し
4.意向の伝達又は説明の態様が組合の自主的意思形成に不当に介入するおそれがない場合には、組合の意思決定に影響を及ぼす内容の情報伝達又は説明であっても支配介入ではない。

 まず理の当然ではあるが、管財人の情報提供かどうかという問題と、支配介入かどうかの問題は、法的には別の問題である。これは、労働法以前に法律Aと法律Bとでは要件効果が異なるというだけのことである。

 会社の主張を要約すると、通常の使用者であれば支配介入にあたる場合でも、@〜Cつまり「管財人の情報提供義務の適切な履行」であれば、支配介入(労組法7条3号)にはならないということになる。しかしながらこのような法規は我が国に存在せず、労組法7条3号もそのような構成になっていないので、あくまで労組法7条3号の“解釈論”となるが、それは無理と言うほかない。
 まず7条3号は、同2号のように「正当な理由」(注)がある場合は不当労働行為が成立
しない旨の文言がない。次に解釈論上、憲法等の上位規範から7条3号について成立阻却事由を導出する構成も考えられなくないが、その旨の構成は会社主張にはない。会社更生法は労働組合法の上位規範ではないことはいうまでもない。

 また、管財人による発言の重要性、合理性、正確性とその態様を要件としているが、発言の「内容」について要素から除外しており「争議権の確立を躊躇させるような内容」をもつ本件発言について、対象からの除外を企図する姑息な概念操作である。
 以上から、この会社主張の構成は法的根拠が不明であり、解釈論として成り立たない。
 なお、要保護性の高い争議権確立投票を念頭に、Aのような構成が提起されていることは、労働法学者として大変に遺憾である。

労組法 第7条(不当労働行為)使用者は次に掲げる行為をしてはならない
2使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと
3労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること


◆都労委命令を一般的な判断枠組みに沿って検証してみる

 そこで、本件都労委命令を、国内では通説的見解として最も整備されているプリマハム事件東京地判と同じ判断枠組み「言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響など」に当てはめて検証してみると・・・

@言論の内容
 命令は、「争議権の行使を控えるようにとの一定の説得、交渉を行うこと自体は使用者の言論の自由の範囲内とする余地がある」とする一方で、「確立する過程で行われる投票は・・組合が民主的かつ自主的に決定すべき内部自治ないし運営に属する事項であり、使用者が容喙すべきでない」と争議権の「行使」と「確立」とを区別する枠組みを提示している。また発言の内容について、一般組合員に対しては「投票を躊躇させる」効果、組合に対しては「投票の継続あるいは中止という形で組合の運営に影響を及ぼす」効果を認めている。
 判例上も、労働組合の自主性を尊重すべき内部運営上の方針につき具体的な働きかけを行うことは、それ自体で支配介入とされやすい傾向がある。内部意思決定にも様々な段階があるが、争議権確立投票は、労組法5条2項8号で組合規約の必要記載事項に定めていることから、労働件保障に関する手続きとしてその要保護性が高度にわたることはいうまでもない。命令は、争議権投票手続の遂行そのものを対象とした事案である点を正確に捉えている。

A発言者の地位、身分
 命令は、発言者が「管財人機構において、本件更生手続に中心的に関与していた」点を重視している。これは下級職制による言論でないという趣旨である。

B発表の時期
 命令は、「争議権確立の為の投票を継続するか否かという組合の組織運営に与えた影響は大きい」と、本件最大の特質を正確に把握している。さらに「いまだ争議権が確立するかどうか明らかでなく、純然たる労働組合内部の自主決定に委ねられている時期に」と、労組法7条3項に照らして、最もしてはならない時期に、いわばピンポイントでなされたことを的確に説示している。

C発表の手段、方法
 命令は、一般組合員が出席していない事務折衝の場でなされたことについて、「相応の配慮」と一定評価しているが、発言の内容に鑑みれば組合、組合員に対し「心理的影響あるいは威嚇的効果が存在しなかったとはいえない」としている。
 この判断に異論はないが、「相応の配慮」と評価できるかは疑問がある。なぜなら組合役員に対して投票の遂行そのものの抑制を企図しており、一般組合員を対象とするよりも悪質性が認められるからである。

D発言の与える影響
 命令は、たとえCCUが争議権を確立し、JFUは会社が主張するように“自ら投票を中止した”としても「行為と結果の因果関係は必ずしも必要とされない」と説示している。
不当労働行為の成立について結果の発生を要しないことは、労組法7条3号の文理解釈から導き出される結論であって、判例・学説上の定説である。裁判所と別に労働委員会による救済制度が設けられていること自体、簡便な処理によって団結権侵害行為について組合への結果の発生を未然に防止することも制度趣旨としている。
 「発言の与える影響」を判断基準としているのは、それが違法性を評価する上での一考慮要素となりうるからである。JFUにおいて発言が与えた影響を認定する本件命令は至極真っ当である。

E発言の目的、不当労働行為意思
 命令は「支配介入の成立に当たり、使用者に積極的な反組合的意図ないし動機までは必要とされない」と説示した上で「争議権の確立という組合が自主的に決定すべき純然たる内部自治ないし内部運営に関するものであることを認識した上で、各発言を行っている」ことから、「本件発言につき支配介入の成立を妨げるものではない」と結論している。
 発言の内容および時期等から、争議権投票の抑止を期する意思(具体的な反組合的行為の意思)を、推定することは容易。命令における不当労働行為意思の認定について何の問題も見出すことができない。

【結論】
本件都労委の命令については、その結論、判断枠組みおよびその当てはめのいずれにおいても、その適法性を問題とすべき契機は見当たらない。